第78回日本循環器学会学術集会(JCS2014)速報

胸腔鏡下左心耳切除術:長期持続性の非弁膜症性心房細動における血栓塞栓症予防の新規外科治療戦略

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大塚 俊哉 氏
東京都立多摩総合医療センター 心臓血管外科

 心耳内は血流の停滞により血栓を生じやすく,心房細動による左心耳内血栓は心原性脳塞栓症の塞栓源として最も頻度が高い。

 大塚氏は,左心耳を内視鏡下で切除し,血栓形成を根本から断つ低侵襲外科治療である内視鏡下左心耳切除術を開発し,既に300例近い非弁膜症性心房細動(NVAF)患者に実施している。今回,同氏はその臨床成績を報告し,心原性脳塞栓症の予防効果に加え,QOLなどの面から同術式の利点を挙げた。

NVAF患者92例における左心耳切除術の臨床成績を報告

 大塚氏の術式には,左心耳切除のみを行う方法と左房アブレーションを追加する方法(アブレーション効果が期待できる場合)の2通りある。同氏によると,内視鏡を利用することにより,左心耳切除を行うための良好な視野を得ることができる。切開創は図1aの通り小さく,廉価で汎用性の高い内視鏡手術用エンドカッターを用いることで,巨大な左心耳でも瞬時に安全かつ確実に切除できるという(図1b)。

図1

 同氏は今回,左心耳切除単独の効果を検証するため,左心耳切除のみを実施した92例のフォローアップ成績を報告した。92例の患者背景は,男性63例・女性29例,平均年齢75.4歳(38~84歳)。心房細動のタイプは全例が長期持続性であり,平均左房径は49.2mmと拡大し,平均CHA2DS2-VAScスコア4.4(2~7)であった。92例中59例(64%)が二次予防症例であり,44例(48%)が抗凝固療法による出血性副作用の既往例,11例(12%)が腎機能障害合併例,10例(11%)がアスピリン使用例であった。

心原性の血栓塞栓症の発症・再発なく,QOLは改善

 平均手術時間は38分と短く,最短は18分で終了した。術後平均在院(心臓外科)日数は3.4日であった。切除した左心耳基部の平均最大径は46.6mmであり,著明に拡大していた。左心耳が大きいほど血栓塞栓のリスクが高いと報告されているが,大きな左心耳を確実に根部で閉鎖できる方法は本術式のみであるという。

 術後の平均観察期間は20カ月で,3年以上経過した症例が28例(23%)であった。フォローアップ中に虚血症状の発症または再発が認められたのは92例中2例で,心原性の血栓塞栓症の発症・再発はなかった。抗凝固療法の継続を要した症例は,心筋症による左室機能低下が認められた2例のみであった。二次予防症例における1年後の脳MRI検査(N=13)においても,微小なものを含めて新たな脳梗塞は認められなかった。

 また,QOL質問票(日本版EQ-5D)に回答が得られた38例を対象とした検討からは,QOLの有意な改善が認められた(図2)。心理面での改善は脳梗塞や抗凝固療法に対する不安からの解放,身体活動の改善は心理状態改善の二次的効果や出血性病変のコントロールおよび貧血の改善が寄与したと考えられた。抗凝固療法は生涯にわたり継続する必要があるが,同氏の試算によると,手術と入院の総コストは新規経口抗凝固薬を約3年半服用するのと同等であった。

図2

 以上の結果から,大塚氏は完全内視鏡下左心耳切除術の利点を①高齢者にも安全・確実に実施できる低侵襲心臓外科手術であること②脳梗塞ハイリスク症例においても抗凝固療法離脱を可能にし,フォローアップが不要になること③抗凝固療法離脱により貧血やQOLを改善すること④医療経済的にも有用であること―とまとめた。同氏は本術式について「胸腔鏡手術の基本的技術があれば習得は難しくない」と述べ,今後は術者の育成も含め普及に努めるとした。

抗凝固療法の継続が困難な患者においても有望な新規外科治療

 内視鏡下左心耳切除術は低侵襲かつ安全性が高く,AFにおける非薬物療法の新たな選択肢の1つとして内科医の立場からも注目している。左心耳へのアプローチという着想はあっても,これを外科的に切除するという治療は"コロンブスの卵"といえ,本発表より,AF患者の多くを占める高齢者にも実施可能である点が示された意義は大きい。

 AFに伴う血栓塞栓症の予防には抗凝固療法が行われるが,とりわけ高齢患者では,社会的あるいは経済的理由などから継続が困難になり行き場を失うことが少なくない。本術式はこうした患者にも希望を与える治療となる可能性があり,今後のさらなる進展に期待したい。

土橋内科医院 小田倉 弘典 氏

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