米国消化器病週間(DDW2012)速報

2012年05月23日更新

2型糖尿病の管理におけるHelicobacter pylori 除菌の影響

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赤沼 真夫 氏
朝日生命成人病研究所附属病院消化器内科

 ウイルスや細菌による慢性感染症が2型糖尿病の発症に関与しているとする仮説が以前から知られており,Helicobacter pyloriH. pylori)感染もその誘因として疑われている。実際,H. pylori 感染とHbA1c高値が関連していることやH. pylori 感染者では2型糖尿病の発症リスクが高いことなどが最近も報告されている(Chen Y, et al. J Infect Dis 2012; 205: 1195-1202Jeon CY, et al. Diabetes Care 2012; 35: 520-525)。一方,近年,胃・十二指腸潰瘍患者をはじめとしてH. pylori 除菌療法が広く実施されるようになり,その影響も注目されるところである。

 赤沼氏らはH. pylori 除菌療法が2型糖尿病の管理に及ぼす影響について報告し,除菌後のbody mass index(BMI)の上昇に注意が必要との見解を示した。

除菌療法の前後各1年間のHbA1cやBMIの経時的変化を評価

 赤沼氏らが今回の研究の対象としたのは,活動性の消化性潰瘍や重篤な糖尿病合併症がなく,同院にて2005年1月~09年1月にH. pylori 除菌療法を実施した2型糖尿病患者174例である。

 除菌療法の前後各1年間のHbA1cやBMIの経時的変化を評価し,さらに,インスリンや経口血糖降下薬の開始または増量によって規定される“糖尿病治療の強化”をイベントとしてとらえ,その累積発生率を検討した。

 対象患者の性別は男性146例/女性28例,その他の患者背景は除菌療法時の平均年齢65±7歳,平均HbA1c値7.4±1.0%(国際標準値),平均BMI 22.9±2.6kg/m2,内視鏡所見は胃・十二指腸潰瘍瘢痕期が85例,萎縮性胃炎が78例,その他が11例であった。

除菌後は糖尿病強化療法がポイントになる

 解析の結果,174例全体ではH. pylori 除菌療法の前後でHbA1c値の推移に有意な変化はなかった。ただし,除菌療法時のHbA1c値が平均値の7.4%より高い群(血糖管理不良群)と7.3%より低い群(血糖管理良好群)に分けて解析すると,除菌療法時に比べて除菌療法後に血糖管理不良群ではHbA1c値の有意な低下(P<0.05またはP<0.01,paired Student’s t検定)が認められ,血糖管理良好群では逆にHbA1c値の有意な上昇(P<0.05またはP<0.001,paired Student’s t検定)が認められた(図1)。

図1

 一方,BMIについては,174例全体でも,除菌時の血糖管理不良群と血糖管理良好群に分けても,いずれも除菌療法時に比べて除菌療法後に有意な上昇(P<0.05またはP<0.01,paired Student’s t検定)が認められた(図2)。

図2

 “糖尿病治療の強化”について,除菌後の半年間と除菌前12カ月から6カ月の半年間の累積発生率をKaplan-Meier法で解析したところ,有意ではないものの除菌後の方がリスクが高い可能性(P=0.0709,log-rank検定)が示された。ただし,これも除菌療法時の血糖管理不良群と血糖管理良好群に分けて解析すると,除菌後に“糖尿病治療の強化”が図られたという傾向がうかがえたのは血糖管理不良群であって(図3上),血糖管理良好群ではこうした傾向は認められなかった(図3下)。

図3

 HbA1c値の推移について赤沼氏は,“糖尿病治療の強化”が行われたか否かによるところが大きいとみており,除菌療法がHbA1c値に直接影響したとは考えていない。ただし,H. pylori 除菌療法後は食欲が増進して,体重が増加することが多く,同じことが2型糖尿病患者にもいえると考察している。「糖尿病患者に除菌療法を行う場合には,食欲増進により体重増加の可能性があり,食事には注意が必要だろう」と同氏は述べている。

監修者のコメント

 H. pylori 除菌において,除菌成功後に体重,BMI,血液中コレステロールの増加が起こることが報告されていた。この原因には,脂肪組織に特異的に発現し,主に視床下部を介して強力に摂食抑制作用およびエネルギー消費亢進をもたらし,結果として肥満や体重増加を制御すると考えられているレプチンが関与する。すなわちH. pylori 除菌により胃粘膜内レプチン含量が有意に低下することが大きな要因であると報告されている。このようにH. pylori 除菌により,BMI増加,さらには血糖値の上昇などの報告はあるものの,糖尿病患者における報告はこれまでほとんど見当たらなかった。

 今回の糖尿病患者の検討において,やはりH. pylori 除菌群ほぼ全例でBMIの増加を認めた。一方,糖尿病悪化の指標となるHbA1cの除菌後の変化には,糖尿病治療の強化の有無が大きく関与していた。糖尿病患者において,糖尿病治療の強化が積極的に行われた群においては,たとえBMIが上昇してもHbA1cは変化せず,糖尿病治療の強化が積極的に行われなかった群では,BMIの上昇とともにHbA1cの増加を認めた。言い換えると糖尿病患者において,除菌療法を行うとBMIが増加し,糖尿病治療の強化が必要となるといえる。

 今回の糖尿病患者の多くは慢性胃炎患者であると赤沼氏は述べていた。今後,H. pylori 除菌治療の保険適応がさらに拡大し,H. pylori 陽性慢性胃炎患者まで適応となった際には,多くの患者において本検討結果と同じ現象が生じる可能性があるため,糖尿病科と消化器科の先生が協力して管理していく必要があると思われた。

監修:東京医科大学病院内視鏡センター 教授・部長 河合 隆

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